本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

読書日記(一般・その他)

静から動への変化を詳述した遅塚忠躬の『ヨーロッパの革命』

遅塚忠躬氏の『<ビジュアル版>世界の歴史14 ヨーロッパの革命』(講談社、1985年)を読んだ。18世紀の初めころから19世紀後半までを対象とした近代ヨーロッパの通史だ。タイトルについては、「近代のヨーロッパ」も検討したというが、それだと、何をもって「近…

充実した内容の服部春彦『フランス近代貿易の生成と展開』

服部春彦氏の『フランス近代貿易の生成と展開』(ミルルヴァ書房、1992年)を読んだ。 本書が対象としている時期のヨーロッパ諸国の貿易活動というと、スペイン、オランダ、イギリスの動きが注目されることが多く、フランスの印象は薄いのだが、服部氏は、「た…

深草正博『17世紀の危機とフランス経済史』を読む

深草正博氏の『17世紀の危機とフランス経済史』(現代図書、2021年)を読んだ。「17世紀の危機とフランス国民経済」「17世紀の危機とコルベールの工業政策」「17世紀フランス経済史をめぐる諸問題」「17世紀の危機と移行論争」「18世紀後半フランス伝統工業の…

現代思潮新社の廃業によせて

現代思潮新社が9月に廃業するという。 現代思潮社の名を一躍有名にしたサド侯爵の『悪徳の栄え』 同社は石井恭二氏が創業した現代思潮社を引き継いだ出版会社。現代思潮社といえば、なんと言っても澁澤龍彦氏によるサド作品の翻訳の出版と、それに続く「サド…

渡辺浩『日本政治思想史』を読む

渡辺浩氏の『日本政治思想史 17世紀~19世紀』(東京大学出版会、2010年)を読んだ。江戸時代初期から明治時代初期の政治思想を、儒学なかでも宋学(朱子学)の受容と変遷を中心に読み解いた作品だ。 異文化での儒学の受容を中心に語られる『日本政治思想史』 ま…

渡辺浩『近世日本社会と宋学』を読む

渡辺浩氏の『近世日本社会と宋学<増補新装版>』(東京大学出版会、2010年)を読んだ。徳川時代前期の宋学(朱子学)の受容を、個々の儒学者のテクストよりも、むしろ同時代の社会状況の分析に力点をおいて考察した研究書である。結論からいうと、通常、徳川時代…

江戸時代の蝦夷地探検記『六つの村を越えて髭をなびかせる者』

西條奈加氏の『六つの村を越えて髭をなびかせる者』(PHP研究所、2022年)を読んだ。天明五年(1785年)から同七年(1787年)までの徳川幕府調査隊による蝦夷地探検を、普請役・青島俊蔵の竿取として同行した最上徳内(1754年~1836年)の視点から描いた小説だ。 江…

日本最初の北海道探検の経緯をまとめた『赤蝦夷風説考』

<北海道開拓秘史>の副題をもつ『赤蝦夷風説考』(教育社、1979年)を読んだ。 この本は、天明年間に書かれた蝦夷地(北海道)探検関連の三つの冊子『赤蝦夷風説考』(工藤平助)、『蝦夷拾遺』(佐藤玄六郎)、『蝦夷地一件』(編纂者不明)をまとめ、井上隆明氏が現代…

『ケンペル 礼節の国に来たりて』を読む

ベアトリス・M・ボダルト=ベイリーの『ケンペル 礼節の国に来たりて』(ミネルヴァ書房、2009年、中直一訳)を読んだ。元禄三年(1690年)から元禄五年(1692年)までオランダ東インド会社の医師として日本に滞在し、『日本誌』をとおしてヨーロッパに鎖国中の日本…

『天明蝦夷探検始末記 田沼意次と悲運の探検家たち』に感銘を受ける

照井壮助氏の『天明蝦夷探検始末記 田沼意次と悲運の探検家たち』(影書房、2001年)を読んだ。これは内容が充実しているというだけでなく、一人の人間が人生を賭して書いた感動的な著作だ。 著者・照井壮助が人生を賭して書いた『天明蝦夷探検始末記』 まずは…

『蔦屋重三郎 江戸の反骨メデイア王』を読む

自分なりのNHK大河ドラマ『べらぼう』の勉強シリーズ第二弾として、増田晶文氏の『蔦屋重三郎 江戸の反骨メディア王』(新潮選書、2024年)を読んだ。もちろん、『べらぼう』の主人公・蔦屋重三郎(寛延三年<1750年>~寛政九年<1797年>、以下<蔦重>と略記)の評…

徳川幕府の台所事情を分かりやすく説明した『江戸の経済官僚』

江戸時代のさまざまな経済事情を勉強しようと、『江戸の経済官僚』(佐藤雅美、徳間文庫、1994年)を読んだ。江戸時代の徴税制度、徳川幕府の収支内容、通貨政策などをまとめた作品だ。 徳川幕府の台所事情を詳述する『江戸の経済官僚』 まず幕府の台所事情だ…

『べらぼう』考証者が書いた 『蔦屋重三郎』を読む

明けましておめでとうございます。 このところ、洋物の本の読書が多かったのだが、新春第一弾に選んだのは、今年のNHK大河ドラマ『べらぼう』にちなんだ、鈴木俊幸氏の『蔦屋重三郎』(平凡社新書、2024年)だ。この本は、『べらぼう』の主人公・蔦屋重三郎(以…

歴史書『聖バルテルミーの大虐殺』を読む

1572年8月にフランスで起こったプロテスタントの大量殺害事件<聖バルテルミーの虐殺>を詳解した歴史書、『聖バルテルミーの大虐殺』(フィリップ・エルランジェ著、1960年、日本版編訳・磯見辰典、白水社、1985年)を読んだ。 複雑な16世紀フランス宮廷の動き…

ポーランド最後の国王の資料(図録)が届く

Amazonに注文していた『L’Aigle blanc(白い鷲)』展の図録がとどいた。この展覧会は、2011年から12年にかけて、フランス・コンピエーニュの王宮美術館とポーランド・ワルシャワの王宮美術館で開催されたもので、テーマは、ポーランド最後の国王スタニスワフ・…

20世紀の思想界を分かりやすく解き明かした『実存主義者のカフェにて』

先日、新宿紀伊國屋書店の哲学書関係のコーナーで『実存主義者のカフェにて 自由と存在とアプリコットカクテルを』(サラ・ベイクウェル、2016年、向井和美訳、紀伊國屋書店、2024年) という本を見つけたので、タイトルに惹かれてさっそく購入して読んでみた…

『ミラノ ヴィスコンティ家の物語』を読む

イタリアの歴史家マリア・ベロンチの『ミラノ ヴィスコンティ家の物語』(1956年、大條成昭訳、新書館、1998年)を読んだ。1261年~1447年の約200年間に、12代にわたってミラノを支配したヴィスコンティ家の人々の生い立ち、性格や権力争いを紹介した年代記だ。…

『ベッカリーアとイタリア啓蒙』を再読

堀田誠三氏のほ(名古屋大学出版会、1996年)を部分的に再読した。今回読んだのは本書の後半で、ピエトロ・ヴェッリ(1728年~97年)、チェーザレ・ベッカリーア(1738年~94年)の思想を紹介した第二部「ミラノにおける啓蒙思想の展開」だ。 フランス思想を受けい…

フーコー『監獄の誕生 監視と処罰』を読む

ミシェル・フーコーの代表作の一つ『監獄の誕生 監視と処罰』(1975年、田村淑氏訳、新潮社、1977年、以下『監視と処罰』と略記)を読んだ。『監視と処罰』を読むのは今回が初めてかとおもっていたら、巻末に1992年読了と自分の書き込みがあった。なので今回が…

警察の歴史をコンパクトにまとめた『警察の誕生』

『警察の誕生』(菊池 良生、集英社新書、2010年)を読んだ。日本とヨーロッパの<警察>の歴史をコンパクトにまとめた本だ。 はじめに用語について説明しておくと、日本語の<警察(いわゆるポリス)>は明治以降に生まれた概念(行政組織)で、菊池氏が書いていると…

『ベッカリーアとイタリア啓蒙』を読む

堀田誠三氏の『ベッカリーアとイタリア啓蒙』(名古屋大学出版会、1996年)を読んだ。著者は、日本におけるイタリア啓蒙思想研究の第一人者。本書の叙述の中心はタイトルにもなっているチェーザレ・ベッカリーア(1738年~94年)の思想だが、他にルドヴィコ・ア…

『ヴェネツィアの歴史 共和国の残照』を読む

『ヴェネツィアの歴史 共和国の残照』(永井三明、刀水書房、2004年)を読んだ。タイトルのとおり、697年の誕生から1797年の滅亡まで、ヴェネツィア共和国の11世紀の歴史を描いた作品だ。 ヴェネツィアの社会相が詳細に描かれている とはいえ、この作品は、時…

『大黒屋光太夫、帝政ロシア漂流の物語』を読む

『大黒屋光太夫 帝政ロシア漂流の物語』(山下恒夫、岩波新書、2004年)を読んだ。天明二年(1782年)に駿河湾沖で遭難してアリューシャン列島のアムチトカ島に流され、さまざまな苦難の末に寛政四年(1792年)日本に帰還した伊勢の船頭・大黒屋光太夫(宝暦元年<17…

『ニッポン人異国漂流記』を読む

小林茂文氏の『ニッポン人異国漂流記』(小学館、2000年)を読んだ。鎖国中の江戸時代に、暴風雨のために漂流して外国に流れ着き、そこから帰還した人々の記録を読み解いて、彼らが何を感じたのか、また彼らの記録を読んだり話を聞いたりした当時の人々はそこ…

『16~18世紀ヨーロッパ像 日本というプリズムを通して見る』を読む

マルセル・プルーストに続いては、シャック・プルースト(1926年~2005年)の『16~18世紀ヨーロッパ像 日本というプリズムを通して見る』(山本淳一訳、岩波書店、1999年)を読んだ。 J・プルーストの力作『16~18世紀ヨーロッパ像 日本というプリズムを通して…

ダーントン『猫の大虐殺』を読む

ロバート・ダーントンの『猫の大虐殺』(1984年、海保眞夫、鷲見洋一訳、岩波現代文庫<岩波書店>、2007年)を読んだ。本書は最初、岩波書店から単行本として1986年に刊行されたが、私が読んだ岩波現代文庫版は、そのなかから第3章、第5章を省略して編集した簡…

『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』を読む③ーールイ16世の弁護人

大革命が始まったとき、マルゼルブは、すべての公職から退いていた。しかし国王裁判が決定し弁護人の引き受け手がなかったときに、マルゼルブはすすんで弁護人を引き受ける。 この行動にたいし、ルイ16世は次のようにこたえたという。 「親愛なるマルゼルブ…

『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』を読む②ーー租税法院長から大臣に

ここで、マルゼルブについてあらためて紹介しておくと、有力な法服貴族の家に生まれ、1750年、父ラモワニョンが大法官になったのにともない、同年租税法院院長およびDirecteur de la librairieに就任した。租税法院院長時代に行った建言は評判が高く、ルイ16…

『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』を読む①ーー出版行政とのかかわり

木崎喜代治氏の『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』(岩波書店、1986年、以下『マルゼルブ』と略記)を読んだ。著作や建言などを交えながら、18世紀フランスの政治家クレチアン=ギヨーム・ド・ラモワニョン・ド・マルゼルブ(1721年~94年)の一生を追…

ダーントン『検閲官のお仕事』を読む⑤ーー活字文化について考えさせられる

さて、以上の三部をまとめるとどういうことになるだろうか。 ダーントンは自問する。「検閲とは何なのか」(本書261頁)と。しかし、「この問いは正当なものだが、フランス人が『立て方の悪い問い(questions mal posées)』と呼ぶ概念上の落とし穴の一つ」(本書…