本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』を読む③ーールイ16世の弁護人

大革命が始まったとき、マルゼルブは、すべての公職から退いていた。しかし国王裁判が決定し弁護人の引き受け手がなかったときに、マルゼルブはすすんで弁護人を引き受ける。

この行動にたいし、ルイ16世は次のようにこたえたという。

「親愛なるマルゼルブ殿 貴殿の至高の献身にたいするわたしの気持を表現することばもありません。貴殿はわたしの願望を先取りして下さり、70歳になった貴殿の手をさしのべて、わたしを処刑台から遠ざけようとされています。わたしがもしまだ玉座を占めているなら、それを貴殿とわかち、わたしに残されている半分の玉座にふさわしくなるでありましょうに」(本書337頁)。

ルイ16世は1793年1月12日に処刑され、翌年4月22日、マルゼルブも処刑される。木崎氏はこれを、次のようにまとめている。

「マルゼルブが身を捧げたのは、ルイ個人のためだけではなかったであろう。ルイはそれに値しなかった。マルゼルブが身を捧げたのは、かれの72年の全存在の大義のためであったようにわれわれには思われる」(本書341頁)。

そして本書は、次のように結ばれる。

「大革命のとき、かれは過去の人であった。かれは新しい時代を生むために、その72年の生涯を捧げた古い時代の人間であった。マルゼルブの死は、いま消えようとする古き時代に捧げられたもっとも美しい頌歌であった」(本書350頁)。

先に木崎氏の訳語について批判したが、全体として考えれば、本書は非常にすぐれたマルゼルブの伝記であり、旧体制下の出版事情もよく分かる。またマルゼルブの思想に対する木崎氏の共感が溢れており、それがストレートに伝わってくる。