本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

ダーントン『猫の大虐殺』を読む

ロバート・ダーントンの『猫の大虐殺』(1984年、海保眞夫、鷲見洋一訳、岩波現代文庫<岩波書店>、2007年)を読んだ。本書は最初、岩波書店から単行本として1986年に刊行されたが、私が読んだ岩波現代文庫版は、そのなかから第3章、第5章を省略して編集した簡…

残念だった藤原歌劇団の『ファウスト』

昨日は東京文化会館で藤原歌劇団によるグノーの歌劇『ファウスト』の公演を聴いた。オケは東京フィルハーモニー交響楽団、指揮は阿部加奈子。グノーの歌劇を実演で聴くのは、私にとって今回が初めて。手持ちの3種類のCD(クリュイタンス指揮、ボニング指揮、…

訳者からのメッセージを出版社に送る

『精神について』の巻頭に入れる<訳者からのメッセージ>、水曜日にようやく書き終えて出版社に送った。ほんとうは先週末に書き終えたかったのだが、けっこう難産で、時間がかかった。材料不足とか原因はいろいろあるが、出版社から送られてきたサンプルが<で…

『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』を読む③ーールイ16世の弁護人

大革命が始まったとき、マルゼルブは、すべての公職から退いていた。しかし国王裁判が決定し弁護人の引き受け手がなかったときに、マルゼルブはすすんで弁護人を引き受ける。 この行動にたいし、ルイ16世は次のようにこたえたという。 「親愛なるマルゼルブ…

『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』を読む②ーー租税法院長から大臣に

ここで、マルゼルブについてあらためて紹介しておくと、有力な法服貴族の家に生まれ、1750年、父ラモワニョンが大法官になったのにともない、同年租税法院院長およびDirecteur de la librairieに就任した。租税法院院長時代に行った建言は評判が高く、ルイ16…

『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』を読む①ーー出版行政とのかかわり

木崎喜代治氏の『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』(岩波書店、1986年、以下『マルゼルブ』と略記)を読んだ。著作や建言などを交えながら、18世紀フランスの政治家クレチアン=ギヨーム・ド・ラモワニョン・ド・マルゼルブ(1721年~94年)の一生を追…

翻訳者のメッセージを考える

『精神について』の翻訳、昨年11月に一次校正が終わって、その後二次校正待ちになっていたのだが、ここへきて少し動きが出てきた。 翻訳者からのメッセージを書いたらまた校正だ まずは出版社から訳者のプロフィールと本の巻頭に入れる<訳者からのメッセージ…

ダーントン『検閲官のお仕事』を読む⑤ーー活字文化について考えさせられる

さて、以上の三部をまとめるとどういうことになるだろうか。 ダーントンは自問する。「検閲とは何なのか」(本書261頁)と。しかし、「この問いは正当なものだが、フランス人が『立て方の悪い問い(questions mal posées)』と呼ぶ概念上の落とし穴の一つ」(本書…

ダーントン『検察官のお仕事』を読む④ーー共産主義東ドイツ

第三部の舞台は崩壊前の東ドイツだ。 東独では、表現の自由を保障する憲法によって、公的には検閲は存在しないとされていた。しかし実際には、次のようなシステムによって、出版が統制されていた。 まず組織の面では、政府の頂点である閣僚評議会の下に文化…

ダーントン『検閲官のお仕事』を読む③ーー英領インド

第二部は、19世紀の英領インドに舞台を移す。インドの出版関係の法規は自由を尊重するイギリス本国にならっているため、名目的には<検閲>という制度は存在せず、出版取締りは個々の出版物の摘発と裁判をとおして行われた。 冒頭で取り上げられるのはジェイム…

ダーントン『検察官のお仕事』を読む②ーーブルボン朝フランス

まず第一部「ブルボン朝フランス」。 冒頭でダーントンは次のように書く。「(18世紀についての)一般的な歴史解釈では、表現の自由を促進しようとする作家の試みと行政官の抑圧的な活動を対比させる。(中略)こうした解釈には利点が多い。古典的自由主義や人権…

ダーントン『検閲官のお仕事』を読む①ーー著者の経歴と方法論

昨年12月に刊行されたロバート・ダーントンの『検閲官のお仕事』(2014年、上村敏郎、八谷舞、伊豆田俊輔訳、みすず書房<2023年>)を読んだ。三部に分けて、18世紀のブルボン朝フランス、イギリス支配下の19世紀インド、20世紀の東ドイツで書籍の検閲がどのよ…

篠山紀信さんの死を悼む

4日、写真家の篠山紀信さんが亡くなった。仕事で何度かお会いしたことがあり、撮影に立ち会ったこともあるので、ご冥福をお祈りしたい。 篠山さんは被写体を前にして迷わなかった 著名な写真家というと、写真をたくさん撮り、そのなかから良い作品を選ぶので…

PCが動かなくなって大あわて

昨日PCを操作していたら、急にアイコンが機能しなくなり、(アイコンを使っているので)PCを閉じることもできなくなって大あわてだった。また昨日は体調不良も重なって、かなり気が滅入った。 PCがせそ動かなくなって大慌てしたが、原因はマウス故障だった 体…

18世紀フランスの冤罪事件を追った著作が届く

年末に、Amazonで注文した『Que passe la justice du roi--Vie, procès et supplice du chevalier de la Barre』(Max Gallo, 2011, André Versaille éditeur)が届いたので、読むともなしにパラパラとページをめくっている。タイトルは訳しにくいのだが、意訳…

炭鉱町の一家の出来事を淡々と描いたJ・フォードの『わが谷は緑なりき』

1月2日はDVDで、アメリカ映画『わが谷は緑なりき』(1941年、ジョン・フォード監督)を鑑賞した。米アカデミー賞の作品賞、監督賞など6部門で受賞した古典的作品だ。フォードは前年にスタインベック原作の『怒りの葡萄』を監督しており、両作品をとおして、社…

現実と非現実の境目に迫ったイラン映画『クローズ・アップ』

元旦は、自宅でイラン映画『クローズ・アップ』(1990年、アッバス・キアロスタミ監督)を鑑賞した。キアロスタミ作品もイラン映画も、鑑賞するのはこれが初めて。 現実の不透明さに迫った『クローズ・アップ』 この作品は、サブジアンという失業中の男が、実…