現代思潮新社が9月に廃業するという。

同社は石井恭二氏が創業した現代思潮社を引き継いだ出版会社。現代思潮社といえば、なんと言っても澁澤龍彦氏によるサド作品の翻訳の出版と、それに続く「サド裁判」で、出版界のみならず社会的に大きなうねりを生み出した会社だ。営利というより、出版をとおして社会に揺さぶりをかけるということを考えていた貴重な企業だとおもう。

石井氏の出版に対する考えは、「澁澤龍彦全集」(河出書房新社)第11巻と第12巻の月報で読める。
「僕は猥褻というのは大変けっこうなことだと思うけど。だけれどもサドの猥褻というのは、やっぱりちょっとわからないですよ、これは。当時もわからないけれども、いまもってわからない。だって僕自身が『悪徳の栄え』を最初に原稿の段階で読んだ時に、猥褻なんて全然考えなかったものね」(同月報)と、猥褻やエロティシズムという観点から話題性を狙って『悪徳の栄え』を出版したのではないことを明言しているが、石井氏の戦略は、それ以上にけっこうアナーキーだ(笑)。

また現代思潮社による出版事業の意義といえば、私には、足立和浩氏の翻訳によるこの『グラマトロジーについて』(デリダ)も、欠かすことができない作品だ。
時代の波による廃業だろうか。同社の社会貢献に敬意を表する。
なお、廃業の知らせは、同社のHPでも読むことができる。