本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

読書日記(アメリカ文学)

リアルでありながら非現実的な『ルブリンの魔術師』

ユダヤ人の作家アイザック・バシェヴィス・シンガーの小説『ルブリンの魔術師』(大崎ふみ子訳、吉夏社、2000年)を読んだ。 作品全体は非常にリアリスティックな書き方なのだが、それを極端につきつめたためにかえって非現実的な感じのする、独自の作風の作品…

自然観察を人間観察に深めた『森の生活』

ヘンリー・デイヴィッド・ソロー(1817年~62年)の『森の生活(ウォールデン)』(1854年、飯田実訳、岩波文庫)を読んだ。あらためて説明する必要もない19世紀アメリカ文学の古典だ。 自然の中での2年間の生活を記した『森の生活』 ウォールデンは、マサチュー…

ケルアック『オン・ザ・ロード(路上)』を読む

アメリカで第二次世界大戦後に登場したビート・ジェネレーション文学の代表作の一つとされる『オン・ザ・ロード』(青山南訳、河出文庫)を読んだ。著者はジャック・ケルアック(1922年~69年)、アメリカでの出版は1957年。この作品、最初は『路上』という邦題…

ボールドウィン『ビール・ストリートの恋人たち』を読む

アメリカの黒人作家ジェイムズ・ボールドウィン(1924年~87年)の小説『ビール・ストリートの恋人たち』(1974年、川副智子訳、早川書房)を読んだ。ボールドウィンの5番目の小説で、彼としては晩年の作品。原題は『If Beale Street could talk』で、「もしビー…

ボールドウィン『ジョヴァンニの部屋』を読む

アメリカの黒人作家ジェイムズ・ボールドウィン(1924年~87年)の2作目の長編小説『ジョヴァンニの部屋』(1956年、大橋吉之輔訳、白水社)を読んだ、パリを舞台にした恋愛小説だ。ただし恋愛といっても男女関係よりも男同士の同性愛が主要なテーマ。 主人公は…

ボールドウィン『山にのぼりて告げよ』を読む

アメリカの黒人作家ジェイムズ・ボールドウィン(1924年~87年、生年はカポーティと同じ)の最初の長編小説『山にのぼりて告げよ』(1953年刊、斎藤数衛訳、早川書房)を読み終えた。邦訳は1961年に出版されてそのまま絶版になっており、日本での知名度は今一つ…

ドライサー『アメリカの悲劇』を読む

アメリカの小説家セオドア・ドライサー(1871年~1945年)の『アメリカの悲劇』(1925年、大久保康雄訳、新潮文庫)を読んだ。ドライサーの代表作であると同時にアメリカ自然主義文学の傑作とされる作品だ。 この作品、ともかく叙述があまりにも平坦でだらだらし…

ボールドウィン『もう一つの国』を読む

アメリカの黒人作家ジェイムズ・ボールドウィン(1924年~87年)の『もう一つの国』(野崎孝訳、新潮文庫)を読んだ。カポーティ(1924年~84年)と同じ年の生まれで、亡くなった年も近い。またゲイというセクシュアリティも共通する。ただしカポーティの作品、た…

カポーティ『冷血』を読む

トルーマン・カポーティ(1924年~84年)の『冷血』(佐々田雅子訳、新潮文庫)を読んだ。1959年にアメリカ・カンザス州で起こった一家4人殺害事件とその顛末や背景を描いたノンフィクション小説だ。 カポーティが意図したものかどうかは別にして、私がこの小説…

ヘミングウェイ『日はまた昇る』を読む

登場人物たちが生き生きと動いているように感じられた『日はまた昇る』 一連のフォークナー作品に続いて、ヘミングウェイの『日はまた昇る』(高見浩訳、新潮文庫)を読んだ。この作品は数年前に一度読んでおり、今回が再読。 ウィリアム・フォークナーが1897…

宿命論的でダイナミックさに欠けるフォークナー

独自手法でアメリカ南部の深層を掘り下げたフォークナー作品 7月から9月にかけて、アメリカの文学者ウィリアム・フォークナー(1897年~1962年)の中編・長編小説を集中的に7冊読んだので、その感想をまとめておく。 まず読んだ作品は次のとおり(発表年代順)。…

フォークナー『アブサロム、アブサロム!』を読む

『アブサロム、アブサロム!』(岩波文庫) フォークナー(1897年~1962年)の長編小説『アブサロム、アブサロム!』(藤平育子訳<岩波文庫>)を読んだ。ミシシッピー州の架空の土地ヨクナパトーファ郡を舞台とするする長編小説としては第6作で、1936年に発表された。…

フォークナー『サートリス』を読む

フォークナー『サートリス』(全集第4巻) 順番は逆になったが、フォークナー(1897年~1962年)が1929年に発表した長編小説第3作『サートリス』(斎藤忠利訳<フォークナー全集第4巻>)を読んだ。ミシシッピー州の架空の土地ヨクナパトーファ郡を舞台とする小説群…

フォークナー『八月の光』を読む

フォークナー(1897年~1962年)の長編小説『八月の光』(加島祥造訳<新潮文庫>)を読んだ。1932年に発表された小説だ。この時期のフォークナーは、1929年の『サートリス』に続いて、次々とミシシッピー州の架空の土地ヨクナパトーファ郡を舞台とする小説を発表…

フォークナー『サンクチュアリ』を読む

『サンクチュアリ』は、フォークナー(1897年~1962年)が『死の床に横たわりて』に続いて1931年に発表した長編小説。タイトルには「聖域」「隠れ家」といった意味がある。私はこれを大橋健三郎訳(筑摩書房<世界文学全集所収>)で読んだ。 話は、アメリカ、ミシ…

フォークナー『死の床に横たわりて』を読む

フォークナー(1897年~1962年)の『死の床に横たわりて』(佐伯彰一訳、筑摩書房<世界文学全集所収>)を読んだ。フォークナーが『響きと怒り』に続いて、1930年に発表した小説だ。 物語は、アメリカ、ミシシッピー州の架空の土地ヨクナパトーファ郡に住む貧しい…

フォークナー『響きと怒り』を読む

ウィリアム・フォークナー(1897年~1962年)の『響きと怒り』(高橋正雄訳、講談社文庫)を読み終えた。これまでフランスをはじめとするヨーロッパの作家の小説はいろいろ読んでいるが、アメリカの作家のものはあまり読んでいないことに気づき、最近は意図的に…