本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

フォークナー『サートリス』を読む

f:id:helvetius:20200827212802j:plain

フォークナー『サートリス』(全集第4巻)


順番は逆になったが、フォークナー(1897年~1962年)が1929年に発表した長編小説第3作『サートリス』(斎藤忠利訳<フォークナー全集第4巻>)を読んだ。ミシシッピー州の架空の土地ヨクナパトーファ郡を舞台とする小説群の最初の作品だ。

物語は、ジェファソンの町で銀行を経営する名門一家サートリス家の生き残りベイヤード老人とその孫で同名のベイヤードの死を核に展開する。老ベイヤードの死は若ベイヤードが運転する車に乗車中の心臓発作による突然死。第一次大戦から帰還した若ベイヤードの死は、双子の兄弟ジョンを死なせたことの後悔から抜け出すことができず、無謀な飛行機操縦を行ってのなかば自殺的なものだ。一族には、最後に老ベイヤードの叔母ミス・ジェニーとベイヤードと結婚し男児を孕んだナーシッサ・ベンボウが残される。

よく言えば、南北戦争第一次大戦という二つの戦争を経て精神的な傷を負ったアメリカ南部の人々の叙事詩だが、描写はやや平板で、読むのに意外と時間がかかった。

フォークナーは、次作『響きと怒り』で、同じヨクナパトーファ郡を舞台にしながら叙述方法をまったく変えてしまうのだが、自分でも、『サートリス』の方法論に不満があったということだろうか。フォークナーのその後の一連の作品に登場する人物が多数登場し、彼らの関係性や背後関係を知るという意味では重要な作品なのだが…。