本と植物と日常

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ボールドウィン『ビール・ストリートの恋人たち』を読む

アメリカの黒人作家ジェイムズ・ボールドウィン(1924年~87年)の小説『ビール・ストリートの恋人たち』(1974年、川副智子訳、早川書房)を読んだ。ボールドウィンの5番目の小説で、彼としては晩年の作品。原題は『If Beale Street could talk』で、「もしビール・ストリートが語ることができたならば(ビール・ストリートに口あらば)」といった意味だが、 私が読んだ邦訳のタイトルは、同時期に公開されたアメリカ映画の邦題に合わせてある。

物語は、黒人青年ファニーの冤罪事件がテーマ。アメリカの黒人問題を正面から取り上げたもので、黒人の公民権運動にかかわったボールドウィンの社会活動家としての側面がうかがえる。

作品の構造からみると、他のボールドウィン作品と同様、この作品も現在起こっている出来事に過去の回想が複雑に絡み、何か事件が起こりファニーが投獄されていることは作品の冒頭で示されるが、それがどういう事件なのか、なぜファニーが逮捕されたのかは少しずつ明らかになっていく。そして結局これが冤罪であり、白人警官によってたくみに仕組まれた事件だということが分かってくる。

このあたりで私は作品の結末が気になって、正義が勝ち冤罪がはらされるハッピーエンドの物語として終わらせても、逆に悪が勝つと終わらせても、結局は単調で、小説として底が浅いものになってしまうのではないかとおもっていたのだが、そうした終わり方にしなかったところにボールドウィンの才覚を感じた。

小説が発表されたのは1974年だが、黒人に対する差別というより、黒人を意図的に罪に陥れて平然としているというアメリカ社会の闇の深さを痛感させられる。

なおこの小説は、1998年にロベール・ゲディギャン監督によって舞台をフランスのマルセイユに移して映画化され(邦題『幼なじみ』)、また2018年にはバリー・ジェンキンス監督によって再度映画化されている(邦題『ビール・ストリートの恋人たち』)

longride.jp

両作品とも、残念ながら私は未見。

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同名の映画の原作『ビール・ストリートの恋人たち』