昨年12月に刊行されたロバート・ダーントンの『検閲官のお仕事』(2014年、上村敏郎、八谷舞、伊豆田俊輔訳、みすず書房<2023年>)を読んだ。三部に分けて、18世紀のブルボン朝フランス、イギリス支配下の19世紀インド、20世紀の東ドイツで書籍の検閲がどのように行われていたのかを丹念に追った著作だ。
この作品は私にとって二作目のロバート・ダーントンの著作だ。最初に読んだのは『革命前夜の地下出版』(1979年、関根素子、二宮宏之訳、岩波書店<1994年>、2023年4月16日に小ブログで紹介済)で、この研究書はスイスのヌーシャテル印刷協会の史料を丹念に読み解いた非常に説得力のある、かつ読み応えのある力作だった。『検閲官のお仕事』は、3つの地域、3つの時代にまたがる研究だが、巻末の訳者解説によれば、ダーントンの専門は主に18世紀フランスを対象とする書物の歴史、文化史という。
ロバート・ダーントン(Robert Darnton)は1939年生まれのアメリカの歴史学者。彼の経歴は、学者としてはちょっと変わっていて、オックスフォード大学でフランス史を学んだ後、1964年~65年に『ニューヨーク・タイムズ』の記者をしていた。『検閲官のお仕事』でもアクチュアルな第三部の東独篇では、ジャーナリスティックな叙述方法が目立つが、そのあたりに、記者としての彼の経験が活かされているように思う。その後は、プリンストン大学、ハーヴァード大学で教鞭をとり、2007年~16年にはハーヴァード大学の図書館長を務めた。
方法論としては、歴史に対してある図式を当てはめて上から概観する(図式を証明する)のではなく、残された史料を丁寧に読み解いてそこに登場する人物像を浮き上がらせ、そうした一人一人の人物の動きが絡んだものとして一つの時代(社会)を描いていくというスタイルに徹底している。そこから出てくる結論は、往々にして従来の歴史記述で述べられているものとは異なるユニークなものだが、ダーントンにそって考えれば、それこそが<歴史>といえるだろう。
非常におもしろい作品だが、全体を単純に要約紹介するのは難しいので、小ブログ初の試みではあるが、連載形式で各部ごとに内容を紹介してみたい。