昨年10月にはじめたCという著者の『アメリカ独立の影響』(仮題)の翻訳初稿ができたので、年末に依頼者である某大学の教官に送付した。訳文は原稿用紙約60枚ほど。

この作品は、パリ条約(1773年)でアメリカ独立が承認されて間もない1786年に書かれ、1788年に公刊されたもので、人権思想や出版の自由に対する影響と貿易を中心とする経済面での影響などを幅広く論じている。また作品が発表された1年後にフランス革命が起きているので、革命前のフランス知識人が新しく生まれたアメリカの社会や制度のあり方をどのようにとらえていたかを知ることもできる。貴重な作品ではあるが、貿易関係の記述の部分は、あまり勉強していない分野なので当時の実態がよく分からず、意味を把握し、適切な訳語を選択するのがちょっと難しかった。

ちなみにCという人物は自然科学や数学の確率論から社会科学へと関心領域を広げた思想家で、文章は論理的といえば論理的なのだがかなり固い感じ。主語や目的語を「〇〇と△△」という風に二つ以上並列することが多く、しかもそれを関係代名詞で後ろから説明したりするので、文章の構造が複雑になって必要以上に分かりにくく、難儀した。この箇所も「y(それ)」とか「ce commerce(そうした貿易)」が何を指しているのか、一読しただけでは理解しづらかった。ちなみにこの部分は次のように訳してみた。
「タバコに関するフランスとアメリカの貿易について、私はすこしも語らなかった。なぜなら、この貿易を行っているのはフランスではけっしてなく、タバコに関する特権をもった会社だからであり、その会社の利害関心は、国民と利害関心が対立していないあらゆる場合、国民の利害関心とまったく無関係だからである。そうした貿易を、なんらかの国民となんらかの方法で行うにせよ、それはつねに同じように有害である。ある会社は他の会社からしか購入しないだろう。しかしながら、アメリカ人からこの商品を購入するとき、銀を用いる貿易と比較した場合に交換貿易から帰結する利点の一部がまたも見いだされるだろうとしても、独占貿易が導くすべての種類の偽の費用は、この利点をはるかに上回り、ほとんど感じられないほどになることだろう。」
このなかの「銀を用いる貿易(un commerce en argent)」という部分は、銀貨で支払うのか、銀塊で支払うのか、それともより一般的にお金(argent)で支払うのか、当時の貿易慣習が分からないので、ほんとうのところを言えば訳語が決められない。
とりあえずいちおう翻訳は終わったものの、課題山積だ。