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アイスラー『ドイツ交響曲』の日本初演を聴く

10月17日(火)は、サントリーホール読売日本交響楽団定期演奏会を聴いた。曲目はヒンデミットの『主題と変奏<4つの気質>』とアイスラーの『ドイツ交響曲』。目玉は2曲目の『ドイツ交響曲』で、当日が日本初演だ。

10月17日、アイスラーの『ドイツ交響曲』が日本で初演された。

ハンス・アイスラー(1898年~1962年)は、複雑な経歴をもつ作曲家で、ドイツ、ライプツィヒ生まれのユダヤ人。はじめシェーンベルクに師事して12音技法を学んだが、作曲に対する考え方の違いから1926年に彼とはたもとを分かち、独自の作曲活動を始めた。しかしまもなくドイツでナチスが台頭するとアイスラーの作品は演奏を禁じられ、38年にアメリカに亡命する。しかしアメリカはアイスラーの安住の地ではなく、戦後、共産主義的な考え方をしていると批判されると、ヨーロッパに戻り、当時の東ドイツに居を定めた。

『ドイツ交響曲』は、ブレヒトの詩がテクストで、ソロと合唱が入る。

『ドイツ交響曲』は、1935年~58年と長い時間をかけて作曲された曲で、東ドイツで1959年に初演。ブレヒトの「おおドイツよ、蒼ざめた母よ」ではじまる詩をテクストとして持ち、ソロ、合唱、朗読が入る。全体は11楽章で構成されている。

戦後の西ヨーロッパで、音楽(作曲活動)は極端に前衛化し、一般大衆の受容と乖離していくのだが、共産主義の信条をもち最終的に東ドイツで活動したアイスラーは、音楽は大衆から離れるべきではないと考えており、『ドイツ交響曲』は、難解ないわゆる<現代音楽>とは一線を画してある。

このためか、初演後演奏される機会は少なく、上にも書いたように、日本では当日が初演。読響の常任指揮者セバスチャン・ヴァイグレは東ドイツ出身であり、一種の使命としてこの曲を日本で初演したようだ。私も、名前でしか知らないこの曲はいったいどんな曲なのだろうかと、興味津々でサイトリーホールに向かった。

読響の演奏は非常に力の入ったもので、ヴァイグレの期待によくこたえていた。これを機に、演奏機会が増えて欲しい。

ついでながら、同時に演奏されたヒンデミット(1895年~1963年)の『主題と変奏<4つの気質>』も好演。小オーケストラとピアノの音色の対比がうまく表現されていた。ヒンデミットはアイスラーと同時代人で、ヒンデミットヒンデミットなりにナチスとの軋轢があって、アイスラーと組み合わせることで、20世紀前半のドイツ音楽の問題を考えるよい機会となった。

コンサート終了後、そのままホールを出ようとしていたところで、何年も会っていなかった旧友と偶然の邂逅。「こんな変わった曲を聴きにくるとは、互いに好き者だなあ」と、旧交をあたためた。