本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

人道主義について考えさせられる映画『シモーヌ』

昨日は新宿武蔵野館でフランス映画『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』(オリヴィエ・ダアン監督、2022年作品)を鑑賞した。フランス保健大臣、欧州議会議長などを歴任したシモーヌ・ヴェイユ(1927年~2017年)の生涯を描き、昨年フランスで大ヒットした作品だ。

政治家、シモーヌ・ヴェイユの生涯を丹念に描いている

映画は、最晩年のシモーヌ・ヴェイユが回想録を綴っているシーンを核に、第二次世界大戦前の幸福な家族生活、アウシュヴィッツとビルケナウの強制収容所、姉の事故死、司法省の官吏としての活動、政治家としての活動をランダムに配列している。

長命だったシモーヌを演じているのは、子役とレベッカ・マルデール(若い頃)、エルザ・ジルベルスタイン(熟年~晩年)の3人の女性。マルデールもジルベルスタインも力演。

強制収容所のシーンは圧巻

結局、シモーヌ・ヴェイユの生き方を決定したのは、ユダヤ人だったために母や姉とともに強制収容所に収容され、そこで母を亡くし、自身も死の縁をさまよったことだろう(父と兄はエストニアに送られたまま消息不明)。戦争が終わって収容生活から解放されても、そのトラウマからはなかなか回復できない。

そうしたなかで、政治を志すアントワーヌという良き理解者・配偶者に恵まれ、司法省で仕事をはじめると同時に、抑圧された人々の環境改善に取り組んでいく。また、それらの活動が評価されて民間人として大臣に抜擢されると、カトリック国フランスでの強硬な反対を押し切って妊娠中絶の合法化法案を成立させる。

とまあ、現代フランス政治史の大きな節目で活躍したシモーヌ・ヴェイユという人のことが、この映画をとおしてよく分かった。彼女は、イデオロギーや権益に左右されるいわゆる<政治家>というより、人道主義(ヒューマニズム)とは何かを深く考え、現実の社会的問題のさまざまな局面で、そこからどういう解決策を導くべきかを突き詰めていった人物であり、その点がフランス人に敬愛されたのだろう。

ただし作品として考えると、観客の情感に訴える絵になる場面を次々につなげていったという感じで、伝記映画としての客観性には、ちょっと欠けるところがあるのではないだろうか。それはやはり、回想録を執筆しているシモーヌを中心に組み立てた脚本に起因しているのではないかという気がする(1人称と3人称が入り乱れているようにおもう)。

映画『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』公式サイト