本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

人物描写の細やかさに圧倒される吉田秋生の『詩歌川百景』

吉田秋生のコミック『詩歌川(うたがわ)百景』(小学館)の第三巻が発売されたので、さっそく読んでみた。ただし第二巻が出てから一年以上たって、入り組んだ人物関係がよく分からなくなってしまったので、第一巻からまた読み直し(笑)。しかし結果から言えば、その方が作品の全体がよく分かった。また『詩歌川百景』は、一巻に4話ずつエピソードが入っているのだが、一つのエピソードを描くのに4カ月ほどかけているので、物語の細部が深く考えられ、練り上げられている。この点も、全体を読み直してあらためて感心した。

物語の細部まで深く練り上げられている『詩歌川百景』

ともかく第三巻まで読んでみて、この巻に収載されている第11話「炎上」でようやく登場人物紹介が終わった感じだ。ここで主要な登場人物である4人の若者(20歳の男子3人と18歳の女子1人)のキャラクターがほぼ決まって、これからまたこの若者同士の新たな絡み合いがでてくるのだろう。一人ひとりの若者は、自分だけの秘められた過去やそのことからくる独自の思い(心の傷や悩み)あるいは性格をもっているのだが(第一巻で少女・妙が川の中で泣いていたわけも第9話「苦い蜜」でようやく明らかにされる)、これだけ登場人物の内面がしっかり描かれている作品は、コミックだけでなく内外の小説を含めてもほとんど思い当たらない。

また第12話「解けない謎」では、新たな登場人物が出てくるのだが、その登場人物は、『詩歌川百景』の前作で姉妹編と言える『海街diary』の登場人物で、『海街diary』を繰り返し読んでその人物のキャラクターを知っているので、新しい話しにも深みがある。ただし、今回登場した人物は『海街diary』のメインキャラクターではない。サブキャラクターだからこそ、新しい物語のなかで作者も読者も、その人物像をふくらませることができるのだろう。

ということで、あえて今後の展開を予想すれば、物語の本筋である若者たちのからみからすればサイドストーリーに過ぎないこの<謎>が、これから意外な展開をみせて本筋とからんでくるのではないだろうか(でも、どうやって!?)。