本と植物と日常

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しゃれているけど中身もつまった映画『パリタクシー』

23日は角川シネマ有楽町で、フランス映画『パリタクシー』(クリスチャン・カリオン監督)を観た。
この作品は、邦題のとおり、92歳の老女マドレーヌが介護施設に入居するのを、タクシー運転手シャルルが迎えに行き、パリの反対側にある施設に送るという物語。移動の途中でマドレーヌはあちらこちらと彼女の人生にとって重要だった場所への寄り道を指示し、少しずつ彼女の過去が明らかになっていく。またマドレーヌに乞われるままシャルルも自分について話し出し、いつの間にかそれまで見ず知らずだったマドレーヌとシャルルのあいだに共感が生まれてくる。
ある意味では、とてもありふれた設定で、おそらくタクシーであちこち移動しながら運転手と乗客が触れ合うという枠組みが最初にあって、それでは乗客の過去(物語)はどういう設定にするかということを考え、合わせて、乗客と運転手のキャスティングを考えて、最終的に作品のストーリーがまとまったのではないだろうか。

しゃれているけど中身がつまった『パリタクシー』

しかしこの作品、主演の二人がとてもいい。
マドレーヌ役のリーヌ・ルノーは、人生を重ねて、芯があって、ユーモアも解するという感じの女性を演じている。実際のルノーは1928年生まれのシャンソン歌手で、撮影時に94歳。おそらくこの作品が自分の遺作になるという覚悟でマドレーヌを演じたのだろう。これを受けるシャルル役のダニー・ブーンも、生活苦をかかえたにくめない中年運転手を、自然体で演じていた。
またリーヌ・ルノーがゆっくり話すので、会話がとても分かりやすく、個人的にはフランス語の勉強にもなった。

タクシーはパリの街並みを縦横にまわる

原題は「Une belle course」で、<素晴らしいコース>の意味。これはタクシーで回るコースが美しいということと、マドレーヌの人生行路が素晴らしいということを二重に意味しているのだろう。実際、映画に映し出されるパリの街並みはとても美しく(特殊な撮影方法をつかったらしい)、同じような題材でも、パリ以外の都市が舞台だったらまったく違った作品になったのではとおもった。

全体としては、ちょっとシャレているが、中身もしっかりつまってるという感じ。

https://movies.shochiku.co.jp/paristaxi/