本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

母と息子の成長物語『午前4時にパリの夜は明ける』

今日は新宿武蔵野館に行き、フランス映画『午前4時にパリの夜は明ける』(ミカエル・アース監督)を観てきた。1980年代のパリを舞台に、普通の一家の7数年間を追った作品だ。

母と息子の人間的な成長を追った『午前4時にパリの夜は明ける』

主人公の中年女性エリザベート(シャルロット・ゲンズブール)は、夫に去られ、2人の子供を育てていかなくてはならない(40歳代という設定だろうか?)。いろいろ仕事を探して見つかったのは、深夜のラジオ番組で視聴者からの電話を受け付ける助手。そこで、家出娘タルラと出会い、彼女を自宅に連れてくるところから、いろいろな絡み合いが生まれる。

ただし映画全体をとおしてタルラがどういう娘なのかは結局不明のまま。映画はそうした謎解きとは無関係に進行し、タルラはひっそりと一家を去っていく。

タルラというある意味で謎の娘が物語をすすめる狂言回しになってはいるのだが、結局この作品は、エリザベートと彼女の息子マチアスの人間的な成長物語と言えるだろう。

エリザベートが日記に書き留めていたラジオ番組のなかの言葉を読み上げるシーンで、作品は締めくくられる。

「他者は過去の私たち、

他者が垣間見るのは私たちの破片や断片だ」

各登場人物たちを淡々と描いて、その絡み合いを人生のとある1ページとして放り出した感じの静かな作品だった。

ところで、最近観たフランス映画ということで、私はどうしてもこの作品を『パリタクシー』(クリスチャン・カリオン監督)と比較してしまうのだが、この作品に比べれば、『パリタクシー』は観客に対するサービス精神にあふれていて、ともかく映画を観た人たちを楽しませようとしている。脚本も登場人物たちの細部までうまく書き込んでいる。では作品として『パリタクシー』の方が上質かというと、『パリタクシー』は、物語がうまくできている分だけリアリティーから遠ざかってしまったという感じがしないでもない、

また『午前4時にパリの夜は明ける』は『パリタクシー』とは違う意味で、パリのあちこちの街やさまざまな表情を映し出していて、それが映画の背景になっている。ただし、1980年代の物語という設定なので、街頭ロケはあまり行わず、当時のフィルムを新たに撮影した部分とうまくつなぎ合わせていた。

https://bitters.co.jp/am4paris/#modal