本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

汚れたパリをそのまま描いた『猫が行方不明』

DVDで、フランス映画『猫が行方不明』(セドリッック・クラピッシュ監督、1996年)を観た。

物語の中心人物は、メイクアップ・アーチストのクロエ(ギャランス・クラヴェル)という若い女性。パリの11区にあるアパルトマンでゲイのミシェル(オリヴィエ・ピィ)と同居している。久しぶりに休暇をとることにしたものの、ミシェルに世話を断られ、飼い猫グリグリの世話をしてくれる人がいない。やっと見つけた猫好きの老女マダム・ルネ(ルネ・ル・カルム)にグリグリを預けて休暇から戻ってくると、ちょっとした隙にグリグリが部屋を抜け出してしまい、行方不明になったという。そこで、友人にたのんだりしての、猫の捜索が始まる。

パリの素顔をそのまま描いた『猫が行方不明』

とはいうものの、この映画、ストーリーらしいストーリーはほとんどない。クロエをめぐるさまざまな人間が11区を動き回るところを、実写風につないでいる。あえてこの映画の真の主人公を指摘するとすれば、それは11区の街並みということになるだろう。

パリに住んでいるわけではないので、11区と言ってもピンとこないのだが、パリの比較的中心で、バスティーユ広場などがあるにぎやかな一画だ。とはいえ老朽アパルトマンがたくさんあり、それらは次々に建て壊されている。なので、画面だけを観ているとスラム街のようにしか見えない。素顔というか、こんな汚いパリを描いた映画も珍しい(笑)。ということで、この一画は(おそらく)家賃が安く、低所得者がたくさん住んでいるのだろう。またクロエは、安いアパルトマンをさらに安く住むため、ミシェルと同居しているのだろう。恋愛への関心も薄く、自分を着飾ることをしない(だから男にはもてない)。

とまあ、クロエに代表される一癖あるもののパッとしない普通の人々を、映画はたんたんと映している。そのありのままのようなたんたんとしたところがこの映画のおもしろさだ。

オリジナル・タイトルは『Chacun cherche son chat』で、「みんな自分の猫を探してる」といった意味。自分でも気がつかずに探している猫とはなにで、それはいったいどこにいるのか、ちょっとだけ考えさせて終わる。

猫好きの風変わりな老女マダム・ルネを演じたルネ・ル・カルムは好演。この作品をきっかけにフランスでブレイクしたという。

ベルリン映画祭国際批評家連盟賞受賞作。

DVDには特典としてオリジナルの予告編がついているが、これはちょっとした傑作!