本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

翻訳までの経緯③ーー古都の大学と話し合い

『精神について』の校正そのものが忙しくなってきたので、自分の「翻訳史」を書くゆとりがあまりなくなってきた()。まあ、乗りかかった船なので簡単にまとめてみる。

2005年の某学会大会での研究報告が終わり、翌年頃からようやく『精神について』の翻訳に着手した。この『精神について』は、ともかくとても分厚い本なので(私がもっている初版本で643頁)、翻訳に着手したといっても全部を訳すことは考えておらず、ときどきN先生のお宅に伺いながら、前の方を少しずつ訳していたという感じだ。そんなある日、N先生から、「これまでいろいろな人が何度かこの作品の翻訳・出版を考えていたけれどもすべてうまくいかなかった」ときいた。この話をきいて、私は、自分がヒマラヤの前人未踏の高山に登ろうとでもしているような気がした。

ヒマラヤの高峰のように翻訳者たちをはねつけてきた『精神について』

そうこうしているうちに私の訳稿もある程度分量がたまり、そのコピーを仮製本していろいろな人の意見を聞いてみたいという気になってきた。2008年頃の話だ。この年、今度は大分で学会大会が開かれたので、大分まで行き参加者にコピーを見せたところ、アダム・スミス研究の大家M先生が、「これは貴重な翻訳であり、出版社に紹介したいので、コピーを預からせてもらえないか」とおっしゃってくださった。M先生とはそれまでお話したこともなかったので、このお申し出にはほんとうにびっくりした。そしてM先生は、実際に私の訳稿を古都の大学の学術出版会につなげてくれた。無名でなんの肩書もない人間の翻訳をアカデミックな出版会にご紹介頂いたことには、ほんとうに感激した。

そして大会後すぐにその出版会の担当者に訳稿のコピーを送り、しばらくしてから担当者に会うために古都の大学を訪問した。