本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

翻訳までの経緯②ーー学会で研究報告をする

前回の続きを書いてみる。

さて、『精神論について』という作品に俄然興味がわいたというものの、すぐに翻訳に着手したわけではない。南山大学で開催された某学会の大会のあと、私は、次の大会で自分も研究報告してみようとおもいたった。この時の題材は当時読んでいた別の作家の著作(1789年刊、執筆は1758年頃)で、著者が「prescription」という概念に「時効」と「規定」の二つの意味をもたせているのがおもしろく、それを中心とした考察だった。

それはどういうことかというと、所有権などを定めている法令に確たる根拠はなく、所有者が代々土地やモノをある所有しているので「時効」でそれが認められているだけであり、ということは、そういう法令は言葉のうえの「規定」に過ぎないという主張だ。したがって、社会秩序を乱さないならば、所有権は否定できるという考えにもつながる。またこの作品は、著者の生前には出版されず、フランス革命直前に出版されて、革命のプロセスを予見していたのではないかと評判になった作品だが、たまたま『精神について』と同じ年に書かれているので、『精神について』が発禁処分を受けたこととなんらかのかかわりがないかも検討した。

「prescription」の二重の意味について考察

研究発表することを思い立ってから、まわりに相談者がいなかったので、大学時代の恩師で私にフランス18世紀の作品を読むよう勧めてくださったN先生に相談に行った。N先生は、浦和高校から東大仏文科に進まれており、このコースがS沢龍彦さん、D口裕弘さんと同じだったので二人ととても親しく、東大卒業後、三人を中心に同人誌を発行してもいる。

またこの発表では、原稿の下読み、当日の段取りなどを、当時東京に住んでいた友人Yくんに手伝ってもらった。そのころYくんは体調不良で、この大会のすぐ後に会社を辞めて九州の実家に帰ってしまったので、Yくんの思い出としても、強く印象に残っている。

こうして2005年の大会でなんとか研究報告し、それが一段落してからいよいよ『精神について』の翻訳に取り掛かった。このころはN先生のお宅を何度か訪問させていただき、18世紀の著者たちについてお話を伺うだけでなく、時間があるときは若いころのS沢さんとの交流についてもお話を伺った。