本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

新名哲明の『ポーランド紀行』を読む

新名哲明の旅行記ポーランド紀行』(批評社、1991年)を読んだ。1989年秋、新名が約40日かけてポーランドをまわったときの記録だ。1989年というと、ポーランドで総選挙が実施されて一応の民主化が始まった年であり、隣国東ドイツではベルリンの壁が崩壊している。新名はそうした時期のポーランドワルシャワ、連隊発祥の地グダニスク、古都クラクフなど、縦横にまわって、ポーランドの庶民の生活や考え方を観察している。

社会主義から転換する時期の貴重な記録『ポーランド紀行』

実は私もポーランドを訪問したことがあるが、それは2010年秋なので、新名の旅行はその21年前ということになる。またワルシャワクラクフは私も訪問しているので、「ああ、あそこのことだな」と実感できる部分があって懐かしかった。ただし当然のことながら、新名の観察のなかには、私が感じたことと共通している点と異なった点がある。私の場合、ポーランドの文化団体からの招待旅行だったので、ポーランド人の生活というより、文化や歴史に触れることを大きな目的とし、また宿泊先は全部その団体が予約してくれたホテルで、食事も困ることはなかったのだが、新名はポーランド人の実生活や考え方を知りたいということから、意図的に民宿やユースホステル、ドミトリーを多用しており、その分たしかにポーランド人に実生活に触れているといえる。ただ40日間の滞在なので、実生活に触れるといっても限界があることはいなめない気がする。

また私が訪問したときも、ポーランドはけっして豊かな国とは言えなかったが、新名が見たポーランドは、端的な貧しい国という感じだ。おそらくそれは、社会主義がもたらした問題点で、それは少しずつ改善されたものの、2010年にも、国の貧しさを感じさせる要素が、まだいろいろ残っていた。それと新名は、数日で物の値段が変わる物価の不安定さを強調しているが、私が訪問したときは、そうした要素は少なかった。それでも、街には闇タクシーが多く、タクシー料金がよく分からないといった点は、新名の印象と同じだった。また新名と友人は、ワルシャワ中心部の地下道で暴漢に襲われたというが、私もおそらく同じ場所に行っており、襲われはしなかったものの、ここはちょっと怖いなと感じた。

いずれにしても、庶民の生活を見るために旅行する人は少なく、それが紀行として残されることはさらに少ないので、これは社会主義から転換する時期のポーランドの、貴重な記録だ。