緊急で黒川祐次の『物語ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』(中公新書、2002年)を読み終えた。著者は、1996年から99年まで駐ウクライナ大使を務めたウクライナ通。ウクライナの歴史についていろいろな資料を調べているのは当然のことだが、それらの扱いも客観的で優れている。
ウクライナの歴史、これまで私は隣国ポーランドの歴史をとおして間接的に眺めていたのだが、ウクライナから見れば、ロシア・ソビエトのみならず、ポーランドも抑圧者だったという指摘は目から鱗が落ちるようだった。
現在私が翻訳しているポーランド関係の作品は、18世紀当時のポーランド南部を舞台にしているのだが、ここはもともとウクライナ人居住地で、現在はウクライナ領となっている。また1768年にロシアに反対して立ち上がったバール連盟というポーランド愛国運動の発祥の地バールも現在はウクライナ領だ。島国日本と異なり、領土が陸続きのヨーロッパでは、戦争などによって何度も国境が変わっており、そもそも特定の国の歴史という概念が成立しにくい。問題をポーランドとウクライナに絞ってみていくと、16世紀~17世紀にかけてポーランドが強大な国だったのは、支配下のウクライナ人コサックを兵士として動員できたからだと黒川は指摘する。18世紀になるとポーランドは国力が急激に衰え、結局、ロシア、プロイセン、オーストリアに分割されて国が亡くなってしまう。このとき、ポーランド領のウクライナ人居住地は、大半がロシアに組み込まれた。またそれとほぼ同時に、オスマン・トルコの勢力圏だった残りのウクライナ人居住地域も、ロシアに組み込まれた。
その後の19世紀の独立運動やロシア帝国崩壊に際しての複雑な独立運動についても、黒川は非常にわかりやすく説明している。
政治や戦争のことだとどうしても話が固くなりがちだが、黒川は音楽好きとみえて、ところどころの話題をクラシック音楽とからめて説明しているのも、個人的には好感がもてた。
それにしても『物語ウクライナの歴史』を読むとウクライナの歴史は悲劇的で、早く良い方向で解決して欲しい。