本と植物と日常

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『秋田・庄内 戊辰戦争』を読む

『秋田・庄内 戊辰戦争』(郡 義武、新人物往来社、2001年)を読み終えた。東北地方と越後の諸藩が奥羽越列藩同盟を結成して官軍と戦った戊辰戦争(1868年<慶応四年/明治元年>)の際の庄内藩の戦闘をたどった実録作品だ。

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戊辰戦争で、庄内軍は北斗七星の旗のもと奮戦した

幕末に、庄内藩は幕府から江戸の治安維持・警護を命じられ、京都の新選組に相当する新徴組を統括したが、このため新政府が成立されると会津と並んで朝敵と名指された。朝敵とされた庄内・会津を救済するために結成されたのが冒頭に記した奥羽越列藩同盟だが、諸藩の思惑の違い、軍備の立ち遅れなどから連敗を続けてあっけなく瓦解した(『奥羽越列藩同盟』<星亮一>参照)。このなかで、孤軍奮戦して連戦・連勝したのが庄内軍で、日本海側と内陸から同盟を離脱した秋田藩を攻め、無敗のまま撤退し、鶴岡を無血開城した。あまり知られていないかもしれないが、庄内藩は、戊辰戦争の際の幕府側で官軍に負けなかった唯一の藩ではないだろうか。

『秋田・庄内 戊辰戦争』は、この戦争の詳細を庄内側の記録だけでなく実質的に敗北した官軍の記録からもたどったもの。その奮戦については、庄内出身者としておおよそ知ってはいたのだが、この作品を読んで、庄内藩はほんとうに強かったのだなと、あらためて驚かされた。

庄内軍は四大隊に分かれて秋田城に向けて進撃したのだが、本書はその戦闘を、新庄を攻略したのち、湯沢・大曲など雄物川沿いの内陸部から秋田城を目指した一番・二番大隊を中心にまとめている。カバーデザインに使われているのは、紺地に金の北斗七星を描いた二番大隊の「破軍星旗」。

本書によれば、庄内軍の強さのポイントは、新式の銃を備えていたことに加え、指揮官の指導力が優れており全軍の戦意が高かったこと、戦略が優れていたこと、ということになるだろうか。庄内軍には、「老巧の上田伝十郎、果断の酒井治郎右衛門、剛勇の寺内権蔵、悠々の相良惣右衛門、飄々とした神田六右衛門など、個性的で有能な指揮官がそろっていた。もちろん、これらをまとめた副将竹内右膳の人柄もある。このチームワークの良さに大隊長酒井吉之丞の武士道精神を守り、積極果敢、敵の意表をつく卓抜な戦法、不屈の精神、これらが小隊長によく理解され、総合的にプラスされ、実力以上の力を発揮したのであろう」(同書236頁)という。

私としては、とても気分よく読めた本だった(笑)。ちなみに、著者の郡氏は三重県出身であり、けっして身びいきでの執筆ではないと思われる(為念)。