本と植物と日常

本を読んだり、訳したり、植物に水をやったりの日々…。

『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』を読む③ーールイ16世の弁護人

大革命が始まったとき、マルゼルブは、すべての公職から退いていた。しかし国王裁判が決定し弁護人の引き受け手がなかったときに、マルゼルブはすすんで弁護人を引き受ける。 この行動にたいし、ルイ16世は次のようにこたえたという。 「親愛なるマルゼルブ…

『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』を読む②ーー租税法院長から大臣に

ここで、マルゼルブについてあらためて紹介しておくと、有力な法服貴族の家に生まれ、1750年、父ラモワニョンが大法官になったのにともない、同年租税法院院長およびDirecteur de la librairieに就任した。租税法院院長時代に行った建言は評判が高く、ルイ16…

『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』を読む①ーー出版行政とのかかわり

木崎喜代治氏の『マルゼルブ フランス18世紀の一貴族の肖像』(岩波書店、1986年、以下『マルゼルブ』と略記)を読んだ。著作や建言などを交えながら、18世紀フランスの政治家クレチアン=ギヨーム・ド・ラモワニョン・ド・マルゼルブ(1721年~94年)の一生を追…

翻訳者のメッセージを考える

『精神について』の翻訳、昨年11月に一次校正が終わって、その後二次校正待ちになっていたのだが、ここへきて少し動きが出てきた。 翻訳者からのメッセージを書いたらまた校正だ まずは出版社から訳者のプロフィールと本の巻頭に入れる<訳者からのメッセージ…

ダーントン『検閲官のお仕事』を読む⑤ーー活字文化について考えさせられる

さて、以上の三部をまとめるとどういうことになるだろうか。 ダーントンは自問する。「検閲とは何なのか」(本書261頁)と。しかし、「この問いは正当なものだが、フランス人が『立て方の悪い問い(questions mal posées)』と呼ぶ概念上の落とし穴の一つ」(本書…

ダーントン『検察官のお仕事』を読む④ーー共産主義東ドイツ

第三部の舞台は崩壊前の東ドイツだ。 東独では、表現の自由を保障する憲法によって、公的には検閲は存在しないとされていた。しかし実際には、次のようなシステムによって、出版が統制されていた。 まず組織の面では、政府の頂点である閣僚評議会の下に文化…

ダーントン『検閲官のお仕事』を読む③ーー英領インド

第二部は、19世紀の英領インドに舞台を移す。インドの出版関係の法規は自由を尊重するイギリス本国にならっているため、名目的には<検閲>という制度は存在せず、出版取締りは個々の出版物の摘発と裁判をとおして行われた。 冒頭で取り上げられるのはジェイム…

ダーントン『検察官のお仕事』を読む②ーーブルボン朝フランス

まず第一部「ブルボン朝フランス」。 冒頭でダーントンは次のように書く。「(18世紀についての)一般的な歴史解釈では、表現の自由を促進しようとする作家の試みと行政官の抑圧的な活動を対比させる。(中略)こうした解釈には利点が多い。古典的自由主義や人権…

ダーントン『検閲官のお仕事』を読む①ーー著者の経歴と方法論

昨年12月に刊行されたロバート・ダーントンの『検閲官のお仕事』(2014年、上村敏郎、八谷舞、伊豆田俊輔訳、みすず書房<2023年>)を読んだ。三部に分けて、18世紀のブルボン朝フランス、イギリス支配下の19世紀インド、20世紀の東ドイツで書籍の検閲がどのよ…

篠山紀信さんの死を悼む

4日、写真家の篠山紀信さんが亡くなった。仕事で何度かお会いしたことがあり、撮影に立ち会ったこともあるので、ご冥福をお祈りしたい。 篠山さんは被写体を前にして迷わなかった 著名な写真家というと、写真をたくさん撮り、そのなかから良い作品を選ぶので…

PCが動かなくなって大あわて

昨日PCを操作していたら、急にアイコンが機能しなくなり、(アイコンを使っているので)PCを閉じることもできなくなって大あわてだった。また昨日は体調不良も重なって、かなり気が滅入った。 PCがせそ動かなくなって大慌てしたが、原因はマウス故障だった 体…

18世紀フランスの冤罪事件を追った著作が届く

年末に、Amazonで注文した『Que passe la justice du roi--Vie, procès et supplice du chevalier de la Barre』(Max Gallo, 2011, André Versaille éditeur)が届いたので、読むともなしにパラパラとページをめくっている。タイトルは訳しにくいのだが、意訳…

炭鉱町の一家の出来事を淡々と描いたJ・フォードの『わが谷は緑なりき』

1月2日はDVDで、アメリカ映画『わが谷は緑なりき』(1941年、ジョン・フォード監督)を鑑賞した。米アカデミー賞の作品賞、監督賞など6部門で受賞した古典的作品だ。フォードは前年にスタインベック原作の『怒りの葡萄』を監督しており、両作品をとおして、社…

現実と非現実の境目に迫ったイラン映画『クローズ・アップ』

元旦は、自宅でイラン映画『クローズ・アップ』(1990年、アッバス・キアロスタミ監督)を鑑賞した。キアロスタミ作品もイラン映画も、鑑賞するのはこれが初めて。 現実の不透明さに迫った『クローズ・アップ』 この作品は、サブジアンという失業中の男が、実…

映画『12人の怒れる男』の作品構成に疑問

このところ、(18世紀)フランスの司法制度に関する本をたくさん読んだので、昨晩は、ちょっと視点をずらしてこの問題を考えてみようと、『12人の怒れる男』(1957年、シドニー・ルメット監督)のDVDを鑑賞した。いわずと知れた陪審員制度をテーマとしたアメリカ…

高等法院司法官の実態に迫った宮崎揚弘の『フランスの法服貴族』

宮崎揚弘の『フランスの法服貴族 18世紀トゥルーズの社会史』(同文館、1994年)を読んだ。フランス革命前のアンシャン・レジーム(旧体制)期の地方都市トゥルーズの司法官の実態を探った地味な労作だ。 フランス旧体制下の法服貴族へのレクイエム 最初に、本書…

乱雑になっていた本棚を整理

年末にいろいろな本を購入して乱雑になってしまったので、とりあえずメインの本棚を整理した。 寓居の本棚は、いわゆる図書館の分類法にしたがったものではなく、用途や使いやすさを考えながら、自分なりに配置している。たとえばさまざまな著者は、アイウエ…

モルレの『18世紀とフランス革命の回想』を読む

アンドレ・モルレ(1727年~1818年)の回想録『18世紀とフランス革命の回想』(鈴木峯子訳、国書刊行会、1997年)を読んだ。モルレは、日本ではほとんど知られていない(そしておそらくフランスでも)18世紀の思想家、文筆家、翻訳者。リヨンの貧しい商人の家に生…

シチューをつくって、自宅でクリスマス・イヴ・イヴ。

今日は、自宅で静かにクリスマス・イヴ・イヴの夜を過ごした。 クリスマスのセッティング とりあえず、昼過ぎから牛肉を赤ワインや野菜などと一緒に煮込む。 時間をかけて牛肉を煮込む 前菜は、自分でつくると大変なので、スーパーで売っている市販のものを…

センスがいい水道橋の広東料理店<粤港美食>

昨日は水道橋の画廊に写真展を観に行き、その帰りに、画廊の近くの中華料理店<粤港美食>にふらっと入ってみたが、これが大正解のとてもおいしい店だった。<粤(えつ)>というのは広東のことで、手ごろな価格で本場の料理が味わえるためだろう、店内は中国人の…

石井三記の『18世紀フランスの法と正義』を読む

石井三記の『18世紀フランスの法と正義』(名古屋大学出版会、1999年)を読んだ。法や正義について論じた抽象的な著作かと想像し、それはそれでいいやと思って購入したのだが、実際には非常に具体的な題材を取り上げており、よい意味で想像を裏切られた。 18世…

佐藤賢一『かの名はポンパドール』を読む

佐藤賢一の『かの名はポンパドール』(世界文化社、2013年)を読んだ。もちろん、ルイ15世の寵姫ポンパドゥール侯爵夫人(1721年~64年)の伝記を題材にした歴史小説だ。 直前にミットフォードによるノンフィクションの伝記『ポンパドゥール侯爵夫人』(邦訳:柴田…

西洋近代芸術の成立史をコンパクトにまとめた『近代美学入門』

井奥陽子の『近代美学入門』(ちくま新書、2023年)を読んだ。 内容は「芸術――技術から芸術へ」、「芸術家――職人から独創的な天才へ」「美――均整のとれたものから各人が感じるものへ」「崇高――恐ろしい大自然から心を高揚させる大自然へ」「ピクチャレスク――荒…

仔羊煮込みとボージョレ新酒で食事会

『精神について』の翻訳校正が一段落したので、昨日は自宅に友人をお招きして、ささやかな食事会を開いた。メインの料理は手づくりの仔羊肉の煮込み。飲み物は解禁されたばかりのボージョレ・ヌーヴォーなど。食事や会話だけでなく、料理をつくるのも校正終…

ポンパドゥール侯爵夫人の伝記を読む

『精神について』の翻訳一次校正終了後の第一作目として、ポンパドゥール侯爵夫人(1721年~64年)の伝記『ポンパドゥール侯爵夫人』(ナンシー・ミットフォード、1954年、邦訳:柴田都志子、東京書籍、2003年)を読んだ。ポンパドゥール侯爵夫人は、言わずと知れ…

自宅でささやかにボージョレ・ヌーヴォー解禁を祝う

11月第3木曜日は、ボージョレ・ヌーヴォーの解禁日。毎年この日を楽しみにしているのだが、昨日は、アルバイトの帰りにスーパーでボージョレと総菜を買ってきて、寓居でささやかに、ボージョレ解禁と『精神について』の翻訳一次校正終了を祝った。 待ちに待…

大倉山の洋館でコンサートを聴く

一昨日(16日)は、寓居の向かいに住んでいるクリスティーナさんのヴァイオリン・リサイタルがあったので、大倉山記念館ホールに行ってコンサートを聴いた。 コンサートは趣のある洋館で開催された 会場となった大倉山記念館ホールは、昭和7年(1932年)に創建さ…

翻訳の一次校正がようやく終了

先ほどようやく、『精神について』の一次校正が終わり、校正したページを共訳者に送り、その旨を出版社の担当に連絡した。 翻訳の一次校正がようやく終了 前回の投稿で、校正方針の迷いについて書いたが、結局、<作品解説>は共訳者が自分の責任で書いている…

校正がなかなか終わらない!?

『精神について』の一次校正、残りは<作品解説>と<参考文献リスト>のみで、20頁を切っているのだが、なかなか終わらない。というか、10日間ほど作業がストップしている。 方針が決まらず、校正がなかなか終わらない!? というのも、この<作品解説>は共訳者が…

処女の勝利?

『精神について』の一次校正も残り100頁を切り、もうすぐ終わり。昨日は、朝食と夕食をつくった他は、一日中家で校正をしていた。 『精神について』の一次校正も100頁を切った さて、昨日校正していたなかに、「Quel homme … ne préféreroit pas la palme de…